フェルッチョ・フルラネットのリサイタル
トッパンホールでイタリアの名バス歌手フェルッチョ・フルラネットのリサイタルを聴いた。ピアノはイーゴリ・チェトゥーエフ。
以前『音楽の友』誌でプレガルディエンとシュタイアーの鼎談の司会をした際、ドイツ・リートの本国ドイツでも、昨今はリート(歌曲)を聴く人が少なくなったと嘆いていた。そんなリートの復権を目指して、トッパンホールが2008年にスタートさせた「歌曲の森」シリーズは、毎回一流歌手とピアニストによる本格的なプログラムで歌曲芸術の神髄を紹介している。シリーズが始まって3年目くらいだろうか、僕も同ホールの広報誌に「ドイツ歌曲の魅力」についてのエッセイを書かせていただいたが、それから回数を重ねて、なんとこの日で第20回目(第20篇)だそうだ。
イタリア出身のフルラネットの最大の当たり役は、おそらくヴェルディの《ドン・カルロ》のフィリッポ2世や《マグベス》のバンクォーなどだろうが、プログラムノートのプロフィールによれば、ボリショイとマリインスキー両歌劇場でボリス・ゴドゥノフを歌った唯一の西側出身の歌手であり、ロシア物も得意とするらしい。今回はラフマニノフとムソルグスキーの歌曲。皆さんよくご存じで、ホールはほぼ満席(お客さんに歌手らしい人が多かった)。
それにしても、いい声ですねえ。深みがあるけれども、聴く者を柔らかく包み込むというよりはむしろ、光沢を帯びた輝かしい重低音で表出力が強い。そうでなければ、大劇場でオーケストラを背景に歌うドラマティコは勤まらないだろう。
でも、この日は歌曲だけあって、言葉をとても丁寧に扱い、繊細なフレージングやアーティキュレーションを聴かせた。このようにオール・ロシア歌曲のコンサートを聴くのは、今回が初めてかもしれない。正直言って、ラフマノフの歌曲がこれほど面白いとは思わなかった。劇的だし、曲によってはロマンティックだけれども、決してセンチメンタルではない。西欧諸国におけるラフマニノフ=センチメンタルのイメージは、こうしたロシア語の歌曲を知らないゆえのことかもしれない。
後半はすべてムソルグスキー。選曲もあるのだろうが、やっぱり彼の音楽は暗くて重くて悲しい。ピアノのチェトゥーエフはさすがにウクライナの人だけあって、的確な表現で詩と音楽の結びつきを見事に示していた。なんだかとても凄いものを聴いたという感慨に打たれた。プログラムノートの一柳冨美子氏の解説がとても勉強になった。(10月7日 トッパンホール)

以前『音楽の友』誌でプレガルディエンとシュタイアーの鼎談の司会をした際、ドイツ・リートの本国ドイツでも、昨今はリート(歌曲)を聴く人が少なくなったと嘆いていた。そんなリートの復権を目指して、トッパンホールが2008年にスタートさせた「歌曲の森」シリーズは、毎回一流歌手とピアニストによる本格的なプログラムで歌曲芸術の神髄を紹介している。シリーズが始まって3年目くらいだろうか、僕も同ホールの広報誌に「ドイツ歌曲の魅力」についてのエッセイを書かせていただいたが、それから回数を重ねて、なんとこの日で第20回目(第20篇)だそうだ。
イタリア出身のフルラネットの最大の当たり役は、おそらくヴェルディの《ドン・カルロ》のフィリッポ2世や《マグベス》のバンクォーなどだろうが、プログラムノートのプロフィールによれば、ボリショイとマリインスキー両歌劇場でボリス・ゴドゥノフを歌った唯一の西側出身の歌手であり、ロシア物も得意とするらしい。今回はラフマニノフとムソルグスキーの歌曲。皆さんよくご存じで、ホールはほぼ満席(お客さんに歌手らしい人が多かった)。
それにしても、いい声ですねえ。深みがあるけれども、聴く者を柔らかく包み込むというよりはむしろ、光沢を帯びた輝かしい重低音で表出力が強い。そうでなければ、大劇場でオーケストラを背景に歌うドラマティコは勤まらないだろう。
でも、この日は歌曲だけあって、言葉をとても丁寧に扱い、繊細なフレージングやアーティキュレーションを聴かせた。このようにオール・ロシア歌曲のコンサートを聴くのは、今回が初めてかもしれない。正直言って、ラフマノフの歌曲がこれほど面白いとは思わなかった。劇的だし、曲によってはロマンティックだけれども、決してセンチメンタルではない。西欧諸国におけるラフマニノフ=センチメンタルのイメージは、こうしたロシア語の歌曲を知らないゆえのことかもしれない。
後半はすべてムソルグスキー。選曲もあるのだろうが、やっぱり彼の音楽は暗くて重くて悲しい。ピアノのチェトゥーエフはさすがにウクライナの人だけあって、的確な表現で詩と音楽の結びつきを見事に示していた。なんだかとても凄いものを聴いたという感慨に打たれた。プログラムノートの一柳冨美子氏の解説がとても勉強になった。(10月7日 トッパンホール)

by Musentanz
| 2016-10-08 21:05
| コンサート