ボッティチェリ展、原善伸&鈴木大介ギターデュオ・リサイタル

 本日は美術展とコンサートの二本立て。少し早めに家を出て渋谷のBUNKAMURAザ・ミュージアムで「ボッティチェリとルネサンス」を見た。副題は「フィレンツェの富と美」。ボッティチェリの生きた15世紀のフィレンツェでは、メディチ家が金融業や地中海貿易で莫大な富を得、私財を投じて、街を美しい建物や彫刻などで飾るとともに、フィチーノら人文主義のプラトン・アカデミーやボッティチェリら芸術家らを擁護した。このような社会(経済)と芸術の関係に光を当てた企画展。当時のフィオリーノ金貨、公益質屋の金庫、為替手形、航海図などともに、ボッティチェリや師のフィリッポ・リッピ、フラ・アンジェリコなどの絵画を展示している。
 この主題は辻邦生の『春の戴冠』そのものだ。この機会に再読したのだが、小説の中のサンドロ(ボッティチェリ)や主人公の古典学者のフェデリコの語る言葉は、辻邦生の芸術観そのものだと思った。作家は15世紀のフィレンツェに生きた二人の人物に自らを重ねて、その時代や社会を凝視し、彼らに自らの想いを語らせている。この本についてはいつか詳しく書いてみたい。
 展覧会は平日(水曜)の午後ということもあって、比較的空いていて見やすかった。ボッティチェリは工房作を含む17点と数こそ多くはないが、フィリッポ・リッピ工房での修業時代、独立後、サボナローラ以後の晩年と創作期を展望できる。でもやはり白眉は、今回のチラシにも紹介されているフレスコの巨大な壁画「受胎告知」(ウフィツィ美術館蔵)だろう。左右二対の構図の妙味と見事な遠近法。空から降りてくる天使ガブリエルは重力を感じさせず、その胸元からいくつもの金色の光線がマリアに向けて真っ直ぐに伸びていく。触れると火傷をしそうなエネルギーを纏わせながら。1500年から5年頃作とされるもう一つの「受胎告知」(個人蔵)もすばらしい。こちらは油彩。ボッティチェリのマリアは、たとえば毅然として神のお告げを受けて立とうというダ・ヴィンチのマリアと違って(「いいわ、お受けいたしましょう」と言っているようだ)、俯き加減でしおらしい。それがこの絵では昼下がりのうたたねのようで、天使の存在に気が付いていないようにも思える。天使の白い衣装のふくらみと真剣な眼差しが印象的だ。もう一つはリッピの工房から独立しておよそ5年後に描かれたテンペラ画「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」(ピアツェンツァ美術館所蔵)。赤子の声が聴こえてきそうな幼子と、それを見つめるマリアの端正で繊細な横顔。膝の重さで柔らかな緑の芝がへこむ感じや、薔薇の香りまで伝わってくる。洗礼者ヨハネが可愛い。展覧会は6月28日までです。
 その後、東急線でみなとみらいへ。原善伸&鈴木大介ギター・デュオ・リサイタル(横浜みなとみらい小ホール)。デュオ・アルバムの発売記念リサイタル。カルッリやグラナドス、ファリャの編曲など主にアルバムの収録曲。二人の個性が融合し、時に丁々発止のやり取りがスリリング。さらにソロを一曲ずつ披露した。大介さんのバッハの《シャコンヌ》は自身の編曲。誇張がなく、力で押さない。無心で音を積み重ねていく編曲と作品自ら音楽を語らせる演奏に今の時代のバッハを感じさせる。原さんは《グラン・ホタ》を弾いたが、あの手この手で、しかも顔の表情をほとんど変えずに淡々と(のように見える)多彩なサウンドを次から次へと繰り出す様はまるで手品師のよう。二人のトークもいつものように惚けていて楽しい。練習をしていて、コンサートとしては演目が少ないことに気が付いたそうで、ラヴェルの《亡き王女のためのパヴァーヌ》とカルーリの《演奏会風二重奏曲》を追加。アンコールに「アルハンブラの思い出」と「愛のロマンス」を弾いたが、編曲がとても洒落ていた。誰の編曲だろう。(4月22日)

後日談:原さんから編曲者を教えていただきました。「アルハンブラ」はサグレラス、「愛のロマンス」(禁じられた遊び)はタラゴだそうです。






 
































 

by Musentanz | 2015-04-26 12:24 | コンサート他


コンサート、美術に映画に読書~音楽評論家那須田務の音楽を中心としたエッセイ


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