日本フィルハーモニー交響楽団第306回横浜定期演奏会他

 新日本フィルとメッツマッハーの翌日(4月18日土曜日)は、日本フィルの横浜定期を聴いたが、その前に別の話題を一つ。
 月に一度、横浜そごうデパート9階の「よみうりカルチャー」でクラシックの講座を受け持っているのだ。タイトルは「楽しく学ぶ音楽史」。毎回一つの曲ないしジャンルを選び、音楽史的な背景や作品解説、聴き所などをお話する、クラシックの鑑賞法講座である。

 この日のテーマは、モーツァルトのピアノ協奏曲。来月シュタイアーが読売日本交響楽団とモーツァルトの協奏曲17番を共演することもあり(オプションで希望する受講生とライヴを鑑賞)、様々な画像を見ながら、モーツァルトの時代のピアノとその特徴、ウィーン時代のモーツァルトの活躍ぶり、モーツァルトのピアノ協奏曲17番について説明して、シュタイアーとコンチェルト・ケルンのCDを聴いた。

 17番ト長調K453はあまり演奏されないが、隠れた名品だと思う。管楽器がふんだんに用いられたカラフルなサウンドや、モーツァルトらしい音楽的な対話が楽しいし、二つの主題とは別にいくつも新しい旋律が顔を出す第1楽章(弟子が初演したこともあってモーツァルトのカデンツァが残されている)。レトリカルな休符を挟んで奏でられる旋律が印象的な第2楽章、登場人物たちが舞台に登場して大団円となるオペラ・ブッファのフィナーレのような終楽章(主題と変奏)というように尽きない魅力がある。シュタイアーの演奏は明快で溌剌としていて、エスプリに満ちたアーティキュレーションやちょっとした装飾音、モデレーター装置を駆使した音色の変化がすばらしい。読響との共演ではモダンのピアノを弾くが、シュタイアーはモダンのピアノを弾いてもフォルテピアノのような音を出す。イェンセン+読響とどんなモーツァルトを聴かせてくれるだろうか。5月の来日が待ち遠しい。ちなみにコンサートは、5月13日(水)にサントリーホールで行われる。指揮はイェンセン、他の曲はショスタコーヴィチの《レニングラード》。

 講座が終わって、みなとみらい大ホールへ。6時から日本フィルの横浜定期演奏会第306回。作曲家生誕150周年を記念した、オール・シベリウス・プログラム。実を言うと僕はシベリウスが亡くなったその日に生まれた。なんていうと、「生まれ変わり?」と言ってくれる人がいるけど、いえいえ、そんな大それたこと。でもきっとどこかですれ違って、挨拶くらいしたかもしれない。そんなわけで古楽大好き人間の僕ですが、シベリウスには日頃からどこかしら運命的な親近感を覚えている。

 フィンランド出身のインキネンは2009年から日フィルと初共演し、すでにマーラーやシベリウスの交響曲などを手掛けている。その日は組曲《カレリア》作品11と組曲《レンミンカイネン》作品22を両端に、真ん中にヴァイオリン協奏曲が演奏された。
 日フィルのシベリウスというと、個人的にはオッコ・カムや渡邊暁生が指揮した《フィンランディア》や交響曲が想い出される。その頃(つまり1980年代以前?)のかれらのシベリウスには、被支配者の苦しみや解放と闘争の記憶を体現したようなところがあったように思う。
 ところがインキネンにはそのような重さはない。一曲目の《カレリア》組曲から、しなやかな指揮振りで、オーケストラからすばらしく柔らかな響きを引き出し、その音楽は緑深き森の湧水のように透明で自然だ。
 続くヴァイオリン協奏曲のソロは若手の三浦文彰。バランスの採れた技術と洗練された音楽性に裏打ちされた、繊細かつダイナミックな好演。
 最後の《レンミンカイネン》はおよそ50分の大作。フィンランドの国民的叙事詩『カレワラ』に登場する漁師レンミンカイネンを主題にした3曲と「トゥオネラの白鳥」からなる組曲である。「レンミンカイネンと乙女たち」は音色もフレージングも透き通るように美しく、儚げな詩情を湛え、そこから大きな大きなクレッシェンドの曲線が描かれる。「トゥオネラのレンミンカイネン」は死の世界を描いているが、昨夜のシュトラウスと違って肉体的な重さがない。大気に漂う薄い灰色の霊のようなイメージだ。「トゥオネラの白鳥」も同様で、かなり遅いテンポで奏でられる、イングリシュッシュホルンの円やかな音色とフレージングには気品があり、幽玄な美しさを湛えている。最後の「レンミンカイネンの帰郷」は様々な冒険を終えて故郷へ帰る英雄の浮き立つ心が表されていた。いずれにせよ、ソリスト、指揮者とともに若さと新しさを印象づけた一夕だった。
  
 後日談。僕は出席できなかったが、コンサートの二日後の4月20日に行われた日フィルの指揮者会見で、インキネンが次期首席指揮者に就任したと報じられた(これまで首席客演指揮者だった)。
 ピエタリ・インキネンはフィンランド出身。1980年生まれだから今年34歳。正式な就任は2016年9月からだが、日フィルの創立指揮者、渡邊暁雄の縁の国(母君がフィンランドの人)の若い指揮者を主力メンバーに迎え、新たにオーケストラの歴史が刻まれることになる。今からとても楽しみだ。(4月18日 横浜みなとみらい大ホール)


























































by Musentanz | 2015-04-24 09:30 | コンサート


コンサート、美術に映画に読書~音楽評論家那須田務の音楽を中心としたエッセイ


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