東京・春・音楽祭《ワルキューレ》

 「東京春祭ワーグナー・シリーズ」vol.6。昨年の《ニーベルンゲンの指環》の序夜《ラインの黄金》に続く《ワルキューレ》。その二日目の公演を聴いた。マレク・ヤノフスキとNHK交響楽団、シリンスのヴォータン、クールマンのフリッカは昨年と同様。シム・イムスン(前作ではファフナー)はフンディング。ジークムント(ロバート・ディーン・スミス)、ジークリンデ(ワルトラウト・マイヤー)、ブリュンヒルデ(キャサリン・フォスター)。それに他のワルキューレたちは邦人歌手(藤枝佳奈枝、小川里美、秋本悠希が再演)。

 昨年と同様にコンサート形式で、ステージ奥の巨大なスクーンに風景が映し出される。前奏では、戦いで傷つき、彷徨うジークムントの視点による森の風景。途中から雨が降るなど変化もあり、「雷神ドンナ-の動機」の所はちゃんと稲光。やがて、丸太小屋が現われて物語が始まる。ちなみに第2幕は上方に空が広がる岩場、第3幕は岩山。雨や雷光、時刻にあわせた外光の変化、木の中で光る黄金の剣など、あくまでも象徴的な役割ながら、映像は物語や音楽に即して動き、聴き手の創造力を掻き立てる。昨年は若干中途半端な感じがしたが、その点ではとてもよかった。イムスンの輝かしいバス、フレッシュな活力に満ちたディーン・スミス(一幕のカーテンコールで、観衆の熱烈な喝采を受けて思わずガッツポーズをしたのが印象的だった)、重厚なシリンス、勝気なクールマンのフリッカなど、歌手たちの声には十分な強さがあり、表現が前に出る。

 ヤノフスキはつい先頃ベルリン放送交響楽団とすばらしいブラームスを聴かせてくれたばかり(3月16日サントリーH。3月17日のブログをご覧ください)。謹厳実直な指揮振りで、みんなが知っている勇ましい第3幕の前奏曲にも取り立てて高揚感を与えない。手堅くオーケストラを纏め、抜群の安定感で音楽劇をリード。NHK交響楽団もよくそれに応えて、弦にはヨーロッパ的な深みがあるし、木管、金管ともにとても良い音を出している。演出家による作品の読み替えを推測するのも、オペラの愉しみだが、それがない分、音楽に集中できることも事実。事実、ステージ上のオーケストラの音の動きが細かいところまでよく分かるし(視覚的にも)、演出のない分、聴き手が想像力を働かせる余地があり(スクリーンの映像はあくまでも補助的な役割だ)、セリフや音楽、両者の関係やその意味をじっくりと味わい、心の中で自分なりの物語を熟成させることができる。

 それにしても「愛」だなあと思う。1幕の哀しいほどイノセントな(そして宿命的な)兄妹の愛、2幕の夫婦喧嘩(愛の裏返し)。3幕の父と娘の少々入り組んだ愛。2幕が見ものだった。強気の奥さんが、猛烈な勢いで夫を言い負かし(神々の名誉だとかいって一見正論のようだが、その根底には浮気の夫やその子供たちへの露骨な憎悪がある)、言い負かされた夫はふてくされて、「わかったよ。そうするよ」。2幕のフリッカ(クールマン)とヴォ―タン(シリンス)はまさにそんなふうだった。第1場の最後で、退場するフリッカが、ヴォータンを前にブリュンヒルデに言うセリフ、「戦いの父があなたを待っています。聞くのよ、彼がどんな運命を選んだのか!」のゲキーストgekiest!(選んだ)の末尾の、吐き捨てるような子音に思わず身が震えた。ああおっかない。3幕のフォスターとシリンクスもよかったですね。ここはどんな演奏でもじんわりきますが、今回は特に泣けました。来年の《ジークフリート》が楽しみだ。

 蛇足ながら、今日は平日の3時開演だったが、一階の客席を見渡すとかなりぎっしりお客さんが入っている。でもやはり男性客は年配の方が多い。それはそれでとてもよいことなのだけど、若いお客さんにももっと来てもらう工夫をしたいですね。
 それから、同音楽祭の他のコンサートにもいえるのですが、おおよその予定終演時間が当日配付のパンフレットか、会場のどこかに記されているといいと思いました(会場のどこかに書いてあったらごめんなさい)。(4月7日東京文化大ホール)
 後日記:後ほど確認したらホールに掲載されていたようです。













by Musentanz | 2015-04-10 00:53 | コンサート


コンサート、美術に映画に読書~音楽評論家那須田務の音楽を中心としたエッセイ


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