ウィスペルウェイ・チェロ・リサイタル

 現代のチェロの名手ウィスペルウェイのコンサート(紀尾井ホール3月12日)。ピアノは個性派ピアニスト、パオロ・ジャコメッティ。オール・ベートーヴェン・プロである。

 《魔笛》の主題による二つの変奏曲と、初期、中期、後期のピリオドから一つずつソナタを弾いた。ウィスペルウェイはすべて暗譜、チェロは研ぎ澄まされた感性とヴィルトゥオジティで、驚くほど多彩な音色とニュアンスを引き出す。まさに自由自在、不可能なことはないといった感じだ。でも、「娘か女か」の変奏曲は少々遊び過ぎで、あやうく音楽が崩れそうになることも。

 楽譜を見ない演奏家は目のやり場に困るというが、ウィスペルウェイもあちこち視線を泳がせる。しかも仕草が大きく、見ていて楽しい。とはいえ、それ自体が目的のパフォーマンスでないことは明らかで、音楽への没入振りは尋常ではない。自己と音楽との同一は、音楽の能力を推し量る一つの目安だと思うが、その点でも並外れた才能の持ち主であることが分かる。

 その演奏は技巧的にとても洗練されていると同時に、極めて独創的で感覚的。それはピアノのジャコメッティも同様だ。
 二人ともこれほどまでに音楽に没入すると、18世紀的な意味での音楽的対話は成り立ちにくい。18世紀の音楽は多様なアーティキュレーションを駆使して、文字通りの語り合いを楽しむからだ。一方彼らは二人とも表現がより深いところに内面化されていて(とりわけウィスペルウェイ)、しかもそれぞれの世界で完結しているように思える。それでいて不思議な一体感があるのだ。
 個人的にはベートーヴェンを聴いた気はしないが、素晴らしいコンサートであったことは間違いない。








by Musentanz | 2014-03-27 14:43 | コンサート


コンサート、美術に映画に読書~音楽評論家那須田務の音楽を中心としたエッセイ


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